がんばってきたあなたへ贈るトイアンナの「生きづらさ」診療所 77
著/トイアンナ
こんにちは、トイアンナです。最近、業務の一環として就活生のエントリーシートを見ています。書類選考はどこも大差ないお題を出してくるもので、中でも「挫折を乗り越えた経験」は鉄板ネタ。挫折に耐えた経験からストレス耐性を見たいのでしょうが、それでも新卒が3年で辞める割合は、この30年間変化なし。
けれど、苦しみや悲しみはほんとうに「乗り越える」ものでしょうか。たとえば私が苦しんだのは親からの虐待、犯罪被害、そして大好きな祖父の死でした。どれも今なら冷静に話せますが、それでも私は「乗り越えた」だなんて、とても言えません。昔を思い出せば「ウッ」となりますし、当時の写真を見るとフラッシュバックしてしまうので、ほとんど処分しました。
悲しみを、大事にしよう
苦しみは背負っていいんじゃないか。引きずっていいんじゃないかと思うのです。生活がままならないほど悲しいなら、カウンセリングや医療に頼るべきかもしれません。けれど数日に一回思い出して傷つきをなぞるくらいは、許されたっていい。時には「どうして私を置いていったの」とグチャグチャに泣いたっていいし、「私が世界で一番かわいそう」と自己憐憫に浸ってもいい。
過去を思い出してズキリと胸が痛んだら、「自分はあの時かわいそうだった、つらかったよね」と優しくしてあげてください。あなたに一生寄り添い、大事にしてあげられるのはあなたしかいません。私はあなたが「自分が世界一かわいそうだ、だからもっと愛されるべきだ」と現実での愛情まで押し付けるような人ではないと、信じています。自分の心の中でくらい、自分を愛しつくしたっていいんじゃないかと思うのです。
全部背負って生きていい
今がつらくても、時間が傷の痛む頻度を減らしてくれるでしょう。けれど傷が完全になくなることはありません。痛みや苦しみもあなたを構成する要素として、一枚のタペストリーへ紡がれていくのです。
「この程度で、傷ついたと思うなんて」
「もっとつらい人がたくさんいるのに」
「私なんかが弱音を吐く資格なんてない」
本当にそうでしょうか。あなたは、他人の人生を生きられません。あなたの傷つきは、あなたの人生での大事件です。乗り越えなくたっていい、思い出して苦しんでもいいんです。なぜならそれが、あなたの魅力の一部だから。
トイアンナとは?
人気コラムニスト, ライター。ブログ『トイアンナのぐだぐだ』をはじめ、人の生きざまを分析する文章でファンを獲得し月間50万PVを記録。
http://toianna.hatenablog.com/
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